SPECIAL
COLUMN
2020.07.06
[寄稿] 『no-deデザインが生まれるまで。』
デザイナー 橋口 貴志
皆さんこんにちわはじめまして。デザイナーの橋口と申します。
no-deさんとはご縁ありまして、ロゴデザインやWEBサイトの制作・運営、名刺など諸々デザイン周りのお手伝いをさせていただいてます。
今回、スタッフではない私がno-deさんのサイトの記事を書いていることに違和感をお感じの方もいらっしゃるかもしれませんが、no-deさんからno-deのデザインについて記事を書いてほしいと命を受けまして、このようにしている次第です。
福祉事業を主にされている企業サイトの記事に「デザイン」の記事が載ること自体、不思議に思われる方もいらっしゃるかと思いますが、そのあたりは大目に見ていただければ幸いです。
自己紹介
とにもかくにも、私がまず「何者か」について簡単に自己紹介させていただきます。
私は、滋賀で「un&co.(アンアンドコー)」という名前で、小さなデザイン事務所を営んでいます。
職業としては、アートディレクター兼デザイナーという感じなのですが、紹介の時に「アートディレクター」と聞いても大体初対面の方には「?」という顔をされてしまうので、わかりやすく聞き馴染みのある「デザイナー」ということにしています。
アートディレクターとは何か?というと簡単に言えば、「デザイナー」は実際に手を動かしデザインを作る人、「アートディレクター」は監督としてそのプロジェクト自体の企画からデザインの観点で総括している美術監督のような感じなんですが、すでに分かりにくい説明になりそうな雰囲気なので詳細は割愛させていただきます。。
普段は、個人から企業まで、地元滋賀はもちろん、主に関西方面で様々なデザインに関するお仕事をさせていただいてます。
仕事内容としては、紙媒体もWEBも両方やりますが、見た目のデザインを作るだけにとどまらず、イベントの企画アイデアから関わらせていただいたり、また、自分の趣味の延長からボードゲームのデザインなんかもしていたり。
また、大津市で「ボードゲームが遊べるコーヒースタンドカフェ」というちょっと変わったお店も運営しています。
自分で振り返ってみても「色々やりすぎだろ」とツッこみたくなるのですが、そういう性分なので仕方ありません。。
突然のロゴ制作の依頼
ようやく本題なのですがno-deさんのデザインに関わらせていただいたのは、先程出てきたカフェにno-de代表のカトウさんがお客さんとして元々ご来店いただいていたのがきっかけになります。
ある日いつものようにご来店いただいた際にカトウさんから「今度会社をつくることになったんですが橋口さんにデザインお願いできませんか?」とお話をいただきました。
まだまだ年齢的にもお若いカトウさんからの突然のご依頼に少々驚きましたが、そこでお聞きしたのは、今度はじめる会社が「障がいの方を対象にした福祉事業の会社」ということと、代表がカトウさんと合わせて二人いるということ。
それで「では、もう一人の代表の方も含めて、一度ご飯でも行きませんか?」とお誘いしたのが最初のスタートです。
デザインの打ち合わせにご飯!?とお思いの方もいらっしゃるかもしれませんが、私はディレクションも含めてお仕事をさせていただく時、最も大切にしているものがあるから、というのが理由です。
それが「ヒアリング」です。いわゆる、打ち合わせをして依頼者の方の話を聞く、というものですね。
依頼者の「根っこ」を掘り起こすヒアリング
通常であれば、デザインのお仕事でよくあるのが
依頼者『○○○をこうこうこういう風に作ってほしい。原稿はこれこれで。』
デザイナー『わかりました。では、いついつまでに完成して、¥○○○です。』
のようにデザイナーが発注されたものをそのまま具現化して作るというのをイメージされる方が多いかもしれません。
ただ、このやり方も効率としては悪くはないのですが、その一方で、出来上がったものが依頼者の方からの一方通行での発注になり、実際に手を動かすデザイナーがただただ作業的に作ってしまい、そこに作り手の思いが入らず乖離してしまっていることで説得性に欠けるものが出来上がってしまうことがままあるのも事実です。
特に、ロゴや会社案内、名刺など、その企業(個人)のパーソナルな部分を表すものにとっては、その企業のマインドや本質が表れて然るべきです。
自分の事を客観的に見ることが難しいように、意外に自分たちの本質に気づかず「ロゴや会社案内、WEBサイトって大体こういう感じでしょ?」とステレオタイプなものが出来てしまう。
そうならないよう、ある意味で他者的視点を持てているデザイナーというポジションにとって重要なのが「ヒアリング」だと考えています。
ヒアリングによって、本人たちが気づいていなかったことや、実は大切にしていたこと、などを、根掘り葉掘り聞くことで、どんどん洗い出していくのです。
そこで聞こえてきた内容こそがその人達の「根っこ」であり、デザイナーはその根っこを元にしながら、デザイナー自身のフィルターで濾し、抽出する。
私は、そういうデザインが本来の「あるべきデザイン」なのかなと思っています。
また、経営者の方にヒアリングできる機会はとても重要であり貴重です。
なんだかんだ言って企業は会社のトップの人間性や人柄、考え方でカタチづくられていくからです。
それと、余計な先入観というフィルターが自分に前もって入らないよう、no-deや福祉業界の業態や同業者についても予備知識をあえて入れず打ち合わせに臨みました。
ヒアリングすることで見えてきた代表お二人の人柄
そんなわけで、代表のお二人との打ち合わせ時にも、あれやこれやと質問責めさせていただきました。
no-deを始めるきっかけから、お二人の関係性、お二人の趣味やパーソナルな部分、現在の業界のことなど色々と。
一見、全然デザインとは関係ないような話の中にも、「根っこ」が見えてくるヒントが隠れている場合もあるので、ちょっとした会話の中から引っかかった言葉にも「それはなぜですか?」と細かいとこまで突っ込ませていただきました。(代表のお二人、あれこれ質問ばかりされてお疲れだったかもしれません。その節はすいませんでした。。)
おかげさまで、お二人の話からとても貴重なお話を聞くことができました。
会話の中から出てきた言葉で特に重要だと思ったのが、以下のような言葉。
・「今とここからが交わるトコロ」(←現在no-deのスローガンにもなってますね)
・「袋小路のようにそこで完結するのではなく、no-deという場所やそこにいる人を通して、新たな道が出来ていく交差点のようでありたい」
・「風とおしの良さ」
・「人間、自分で決めるということ以上に大切なことはない」
・「自己性・自己決定に寄り添う」
・「人との出会いを通して自分の役割を把握する」
・「no-deとは、中継点や節のような意味」
・「接合を強固にする、という意味での『楔(くさび)を打つ』」
などなど。
お二人のお話で常に共通して出ていたのはあくまでもそこに出入りする「人間(ひと)」が中心であり、すべてであるということでした。no-deとはその人たちの行き交う場所であり、器であり、概念である、と。
また、直接お二人とご飯を食べながら肩の力を抜いてお話できたことで、お二人の人間性や持つ空気感も同時に感じることができました。
タイプとしては、ある意味対象的と言っていいほど違うお二人なのですが、私がお二人に共通していると感じたことは、その独特な「柔らかさ」です。
奥底には確固たるブレない信念を持ちながらも、およそ経営者とは思えぬ(※褒め言葉です)柔らかさ。
一般的に経営者のイメージというと、組織を引っ張っていく力強さを持ち、リーダー的であり、判断が迅速で、別の見方をするとおカタい印象の方も多いように思いますが、no-de代表のお二人は共通してそれとは対照的な印象でした。
考え方が柔軟で、固執せず、肯定的な物の見方が出来、上からでも下からでもなくフラットな関係性。
「こんな経営者の人も中にはいるんだなあ。この人たちが会社を作ったらなんだかおもしろそう。」というのが、その時の私の率直な印象でした。そして、その印象は、月日が経った今も変わっていないので、それこそがお二人がまとっている人柄そのものなのだな、と感じています。
コンセプトからロゴデザインのアイデアを出す
前置きが長くなってしまいましたが、いよいよロゴのデザインに取りかかります。
ヒアリングで得られたクライアントの「根っこ」の部分を、具現化し、それをコンセプトと共にグラフィックにしていく作業です。
今回は、上記のような実のあるお話が聞けたこともあり、ヒアリングの最中からすでに色々なパターンがぼんやりと頭の中に浮かんでいました。
逆に、ヒアリングがうまくいってなかったり、中身のある話が掘り起こせていない時は、うまくイメージが自分の中で噛み合わず、正解のない道をひたすら彷徨ってしまうことになります。
まずはヒアリングで聞いたお話やキーワードを元に、またお二人の印象を元にして、ラフを無造作につくっていきます。
ロゴのデザインというのはある意味で、依頼者を取り巻くあらゆる要素を極限まで抽出し、視覚化したものです。
すべてを入れようとすると複雑化してしまい視認性に問題ありとなりますし、一方ただただ簡素にしてもそこにコンセプトや思いが乗っかっていなければ薄っぺらいものになってしまいます。
そういうわけで、まずは私のフィルターを通して、頭の中にあるイメージを無造作にラフとして描き起こす作業をし、着地点を探っていきます。
頭で想像し、とても良いと思っていたデザインでも、いざ目の前にカタチになったものを目で見てみると、しっくりこなかったりします。そのためにも、ラフをひたすら描き起こして、脳だけでなく目で見る感覚を試すという意味でもとても大事な作業です。
no-deのデザインの軸 『〜的でないデザイン』
今回no-deさんのロゴをデザインする上で私の中にあった一つの考えとして「福祉的でなくてよい」というものがありました。
いや、「〜でなくてよい」というよりもむしろ「じゃない方がいい」とすら思っていました。
デザインの世界には傾向のようなものが存在します。それを私たちのデザインの世界では「トーン&マナー」と呼んだりもするのですが、分かりやすく言うといわゆる「○○○ぽい」というやつです。
例えば、病院のWEBサイトやパンフレットのデザインって白っぽいものとか、やわらかいピンクみたいなカラーが多いと思いませんか?そこに笑顔の人の写真であったり、イラストが使われていたり。
たしかに病院のWEBサイトやパンフレットに奇抜な赤や黒のカラーが使われていて、ド派手なグラフィックがどーんと載っていても、インパクトはあるかもしれませんが、やっている業務とはかけ離れていてもそれを見たお客さんは不安にしかならないですよね。
なので、業種や業態によって、「○○○ぽいデザイン」というのが世の中多くなるのも納得です。ただ、その一方、その「○○○ぽいデザイン」が世の中に多すぎて、みんな一様に横並びになってしまうことが多いのも事実。
私は、「○○○っぽい」よりも、その企業の「○○○らしさ」の方が重要だと考えています。
そこで、no-deさんのデザインを想像した時、ヒアリングをした私の印象では「福祉的じゃない方がいいのではないか」という結論に至りました。
それはなにも奇抜なことをするということではありません。ただ、no-deさんはいわゆる福祉的ぽいデザインにしたら、この人たちらしくないと思ったのです。
私は福祉業界の事には詳しくありませんが、福祉的なデザインが世の中にどういうものが多いかは想像がつきます。
でも、no-deさんの印象はそれと横並びになってはいけない、もちろん同じカテゴリには居るのだけどそこでも異質な方がしっくりくるというのが私の印象でした。
共に創るデザイン
無造作に作成したラフを元にして、いくつかロゴデザイン案を作成します。
最初のロゴデザイン提案では、1つの大きなデザインコンセプトを立ち上げ、それ軸にして以下のような3つの方向性が異なるロゴデザインを提案させていただきました。
私がロゴデザインを提案する上で意識していることがあります。
それは、選択肢が多すぎないこと、対象の「根っこ」が存在していること、などです。
「根っこ」に関しては先程記述したことですが、選択肢が多すぎないことも重要だと考えています。
特にロゴデザインに関しては、いくつも様々なデザインを作成してそこから選んでもらう形式をとっているデザイナーや会社もあるかと思いますが、ただただたくさん作ってそこから依頼者に選んでもらうだけでは、作り手としての「責任」が抜け落ちてしまっているような気がするためです。
ヒアリングを元にして、それを自分のフィルターを通して具現化し、手を動かして作っているのはあくまでもデザイナーです。
「私から見たno-deのイメージはこのような○○○です。」
ということを責任を持って、説明し、お伝えできること。
ただただ格好が良いデザインではなく、デザイナーと依頼者のイメージが合致して、共創してこそ、ようやく最終的に説得力のある良いもの、納得いくものが出来ると思っています。
ロゴデザイン完成からその先のこと
その後、ありがたいことにこちらから提案したデザインは代表のお二人に気に入っていただけたようで、その中からA案が選ばれましつた。さらにそのA案を元に他のデザインパターンを作成し提案しました。
大枠の方向性が決まった後にさらにブラッシュアップを行っていくわけです。
そして、最終的にはお二人に最初に提案させていただいた案で決定とのお返事をいただき、無事no-deのロゴデザインが完成しました。
完成したno-deのロゴにはそれぞれのパーツやカラーなど各所に意味が込められています。
ロゴはみんなをまとめる象徴であり、同じ方向を見るための灯台のようであり、道を見失ってしまった時の道標にもなります。
ひと目見ただけでは分からないような意味でも、ここで込められた意味は今後no-deが関わる様々な人にとって重要な意味となるのです。
ロゴデザインが完成した後は、いつも私はロゴデザインデータと共に、ロゴマニュアルを同時に作成させていただいています。
ロゴマニュアルとは、そのロゴがどのような意味合いを持っていて、どのような場所でどのように使われるべきかの基準を示すマニュアルです。
ロゴは完成した後、そこからスタッフや関係者など様々な人の手に渡り、一人走りしていきます。
時には広告やパンフレット、名刺、WEBサイトなど様々な媒体に登場する機会もあり、それぞれの人の解釈で自由に使われ、勝手にロゴのイメージを変えられてしまう危険性もあります。
企業のブランドイメージをブレずに統一していくためにもロゴマニュアルを作り、イメージを守っていくのです。
no-deのデザインはこれからも続く
その後、ロゴデザインに合わせてno-deさんの名刺もご依頼いただき、デザインさせていただきました。
ここでも先程出てきた「福祉的でない〜」というイメージは踏襲されています。
その後、しばらくしてこちらのWEBサイトも制作依頼をいただきました。
WEBサイトはWEBサイトとしてのコンセプトを立案していますが、そこでもそのコンセプトの根底になっているのは、ロゴデザインの時から変わっていません。
no-deの「良さとは?」「らしさとは?」。
制作するものは違っても共通しているものは同じです。それが積み重なれば重なるほどに、no-deらしさやブランドというものが徐々にこの社会の中で構成されていくのだと私は思っています。
そんなこんなで、現在も私はno-deさんのデザイン周りのお仕事を継続させていただいておりまして、こちらのWEBサイトの運営や企画で定期的に打ち合わせを行ったり、また会社案内や事業案内のパンフレットなどに関わらせていただいています。
会社の起業のタイミングから、企業全体のあらゆるデザイン面に関わらせていただくことは、私にとっても貴重な機会であり、まさにデザイナー冥利に尽きると言っても過言ではありません。
新しく何かが生まれると、それと同時にデザインも生まれ、そのものが継続する限りデザインも続いていきます。
まだまだ走り始めたばかりのno-deのデザイン。
これから私がそのデザインにどれだけ関わらせていただけるかは未知数ですが、私個人としても今後のさらなるno-deの展開とデザインを楽しみにしています。