SPECIAL
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2024.02.28
特集『no-deの支援における眼差しとは?』
はじめに
私たち福祉職の仕事は、単に事業活動時間中のケアに留まらず、関わる方の生活が楽しく・豊かになるために必要な全てのコトであると考えている。これは一般社団法人no-deへの入職時に、パートタイムを含む全ての職員に対して伝えていることでもある。
また、設立から7年が経過した当法人は、外部から見れば「no-de(らしい)視点」や気質(カラー)のようなものが育ってきているのではないかと思う。「こう対応するのはno-deっぽいよな」とか、「あの職員さんやっぱりno-deっぽい」とか。
本記事は、福祉事業所としての仕事の本質と、それに相対する時の「no-de(らしい)視点」とはどのようなものかを、とある事例を通して示してみるものである。
尚、事例は個人が特定されないよう、トラブルの詳細について記載はしない。
1.トラブル発生
とある日の夕方、no-deのサービスを利用しているAさんの関係者より、Aさんの吸うたばこの火が原因で、トラブルが起きたと連絡があった。事実関係を確認するため、私ともう1人の職員が自宅へ訪問し、トラブルの詳細をAさん本人から聞き取った。
結論から言えば、Aさん本人も、なぜそのようなトラブルになったか(動機)は、「わからない、なんとなく」というものであり、私たちはトラブルの予防策が考えにくい状況に困惑した。また、トラブルの重大さよりも、「どうやったら許してもらえるか」に頭がいっぱいになっている様子のAさんの主張に、少し戸惑いもあった。
no-deの視点
①本人の「わからない」に対して、私たちが想像でストーリーを作り、誘導しないように聞き取りを行った(作ったストーリーが、そのまま刷り込まれ、真実が分からなくなるから)。
②トラブルへの反省が、周りの期待する姿に届かないのは、Aさんがどうしても自分の手近な生活や、人間関係へ思いを巡らしてしまうからか。
→ no-deのこたえ
①わからないものは「わからない」が答え。
②表出するアクションはひとそれぞれ。押しつけはしない。
2.みんなで考える
トラブル後の支援について話し合うため、保護者・関係者での会議の席が設けられた。焦点はトラブルの原因となったたばこの扱い。元々ストレスを溜めやすいAさんであるので、たばこを禁止することで別のトラブルが発生することも考えられる。喫煙は継続し、支援者の目があるところで許可をする、という形をとるのか、はたまた、たばこを全面禁止するのか。
最終的には電子タバコに替えるということで結論が出る。
no-deの視点
①no-deとしては、たばこが原因でのトラブルであり、Aさん自身も明確な動機がつかめていない状況では、禁止とすることがご本人を守ることにつながるのではと考えた。
②トラブル≠周囲に迷惑がかかるもの、ではなく、自分自身の生活を狭めるもの(地域での生活がしにくくなるもの)
→ no-deのこたえ
①たばこは禁止。ただし、危険要素の少ない方法で代替え(例:電子タバコ)できるのであれば、それが一番よい。
②Aさんを守る意味で、勇気ある決断が必要。
3.後日談
電子タバコに一旦納得したものの、その後Aさんはこっそり紙たばこを吸っていることが発覚。自分がなぜ、紙たばこを持てなくなったか、数週間の間に「理屈付け」が外れてしまった様子。それを注意した支援者への粗暴行為もあり、「約束を破った事」「粗暴行為を働いたこと」について、Aさんは注意を受け、反省を促されることになる。
福祉事業所支援者として、「Aさんを守るため」の約束が反故になってしまったこと、そのリアクションが粗暴行為となってしまったこと、について残念に思いながらも、その後の会議では「ご本人の望む生活を縛る結果になっていることを、支援者側も意識して、支援を見直さなければならないかもしれない」と意見がでる。
同時に、医療や、発達支援の観点から専門家へ係ることを進めて行くことになる。
no-deの視点
①たばこの約束を守れなかったことは残念であるものの、粗暴行為での表出となると、サービス提供が難しくなってしまう。
②ご本人のために、支援を考えている…のだけれども、ご本人の自由を奪う結果にもなっている…矛盾。
→ no-deのこたえ
①アプローチができなくなってしまうので、なんとか、手を上げることだけは我慢してほしい(切実)。
②私たちは支援によって「人の権利を奪うかもしれない」ことを常に意識し、独りよがりにならないよう、自己チェック、他者チェックを入れることを常に意識すべし。専門機関に助けを求めることも重要。
あとがき
今回事例の展開に沿ってno-deの視点と答えをまとめたが、一貫して、Aさん自身を否定することはない(罪を憎んで人を憎まず)思考が働いていたと言える。もしAさんと関わる環境や立場が違っていたら、また異なる視点や答えとなっていたかもしれないが、その<その人そのものを否定しない>思考は、きっと変わることのない「no-deっぽさ」なのではないだろうか。
私たちの仕事は、同じ完成形の一日を追求するものではない。日々のちょっとした(または大きな)変化に身をゆだね、少しでも良い一日になるよう、みんなで歩みを進める気持ちを忘れず、大切にしたい。
筆 代表理事 髙木伸斉